閉鎖された空間には私と彼と、そして彼がいた。
 ゲームセンターによく見る機械で遊んでいた彼はこちらを見て、同じ姿の彼に話しかけている、そんなまるで鏡越しのような二人を私はじっと見つめていた。

 二人は同じ背丈で同じ顔、表情が少し違うだけで何も変わらない理由は至極当然で、二人は正真正銘同一人物だ。
 私が現実の園村真希の一部だとするなら、さっきまでゲームをしていた彼が、彼の一部だ。いうなれば私と彼はとても似ている存在。

 相対する二人は、現れた彼の方が少し面白そうに、そうしていつもの彼が戸惑いながらも真面目に話を聴いている。二人の会話は近くにいる私にもよく聞こえる。それは今までの彼の言動における彼の深層心理のようなもので、けれど悔しいくらいにその内面は淀んでいない。
 ぼんやりと浮かんだ感想は只ひとつだけで、それだけだからこそ、そんな単純な感想が私の心をぐるぐるかき混ぜる。
 だって私はあんな風になれなかった。現実を突きつけられて私は拒絶したから。
 自分と同じ顔をした彼女はコードに繋がれて、人形のように横たわっていた。自分とはあまりにも違うはずなのに、どうしても私とし思えなくて総ておかしくなっていく。
 ああ、私はそんな対面だったのに。
 彼は驚いたようだったけれど、やっぱりそれを受け入れているようだった。

「どうかした?」

 急に声をかけられて頭を上げると、不思議そうに彼がこちらを見ている。どこか怪我をしたのかというような困った表情に首を振って、皆の待っている場所と続く道を歩いていこうと促せば、怪訝ながら頷いてくれた。

 たったひとつの感想はきっと羨望というべきもの。私だって現実の私に言いたかったよ。
 ――君は心の眼を持っているから、迷いがないから、君と取り替わろうとしても無理なくらい君には自我あるから、強いんだから。だから大丈夫だよ。
 そう言いたかったよ。
 彼がそう云われて当然だということくらい分かってる。私なんていなければ良いなんて言って、私が現実の私になればよかったんだって言う私にはそんなこと言えるはずもないことくらい分かってる。できるならそうしたいくらいだよ。だってそうなれたら私は私の弱さなんて見ないまま、彼と皆と一緒にずっといられる、んだ。
 でも、そんなんじゃ駄目でそれじゃ皆の頑張りと私の決意が消えてしまう。現実の私が理想とするのが私だとするなら、私にだってあの私が存在しているってこと。それを見ないふりをしていた私もきっと彼の一部が言うべき言葉も、言われた彼にも近づけていないんだってもう分かってるから。

 分かってるから。だから、ほんのもう少しだけ。

反射鏡