「驚かないんだね?」
 わらわらと自己紹介を終えて会話を始めた中、きっとあの中でリーダーと言われるべき人物がこちらを向いた。
「それは、時計台の存在? それとも善と怜のこと?」
「いや、それもだけれど、僕たちの事」
 どちらかと言えば、転校する前の都会の雰囲気に近い制服を羽織っている。彼はそれこそちっとも驚いていない顔でこちらに尋ねる。
「……驚いてるけど」
「え」
「俺の世界――で、いいのか? 影時間っていうのも知らないし、シャドウを殲滅するためとか、そういうの俺にはないから」
言うなれば成り行き。そして少しの好奇心と色々。そんな軽いものだからと言えば、片目を隠した彼はふうん、と小さく首を傾げた。
「同じくらいの年でそんな重いものを思って戦うなんて、驚いてたんだ、これでもな」
 伝わらなかったらしいので、言葉にすれば、彼はやはり驚いてはいない顔で口を開いた。
「君、変わってるね」
「……よく言われる」
 理由は分からないけれど、よくあることに少し困りながら頷けば、彼も似たような顔で小さく言った。
「僕も」
「え?」
「正義感なんてないし、なんとなくだよ。あと」
 彼は仲間たちを見つめている。俺たちの仲間と楽しそうに笑う仲間を酷く遠い目で見ていた。
「僕も変わってるってよく言われる」
 そう言う姿はまるで得体のしれないものの様で、なんとなく言葉を紡ぐことを阻まれた気がした。


 少し視線を外せばそびえ立つ時計台を視界に捉える。
 あの時計台はどこから来たのか、彼はどこから来たのか――いや、ここが俺の知る八十神高校ではない可能性も残っている。なら此処はどこなのか。そして俺たちは何処にいくのか。それは何時なのか。そんな無数の疑問が浮かんでは消えていく。
「とりあえず」
「うん?」
「これから宜しく」

 分からないことだらけなのは、テレビに突っ込んだ時と似ていた。
 ならば動くしかないし、探る為の場所だって露呈している。つまりは進むしかない。
 結局のところ一つしかない結論を今更導いて小さく頷く。そうして同じ様に導いたはずの彼に向き直って手を差し出した。
「……うん、君、やっぱり変わってる」
「お互い様だろ?」
「……そうかもね」
 手を差し出してくれたそれは、俺よりかほんの微かに小さい気がして、彼とか状況とかの全てにおいて凄いとしか思えなかったけれど。

(――あ)

 小さく笑った彼がなんだかやっと、俺と同じ存在だと思えて少し安心できた。

First contact.