殺風景だと自覚する自室の一角に荷物を下ろす。買い出しをするために外へと出かけたのは久しぶりだった。
 ユリアシティと呼ばれるこの場所は、いくら外郭大地を下ろし世界の一端となっても、周りはすべて海が広がる監視者の街という名がよほど似合う閉じられたような場所で、作物も決まったものしか育たない。折角前よりかは自由に行き来できるのだからと、久々に街を出たのだった。執務も前よりかは忙しくもないのが理由の一つでもあった。

 食材を早々に保冷庫に入れ、残りのグミや趣味のものを部屋の仕事用の机に置いた。とたんにコロンと音がした。
 沢山買ってくれてたからこれはサービスな、笑い顔で最初に立ち寄った食材屋を二度目に訪れた時、食材を入れた袋にひとつ入れてくれたのをそういえば忘れていた。
 収穫の時期の終わりかけ、店頭によく並ぶそれはティア自身も何度か見かけていた。それでも手に取ることはせず、見ないように見ないようにとしていた赤くて甘い果実。
 早々に収穫したのだろうか、真っ赤ではなくて少しだけ色褪せるような、紅い色。
 そんな色は嫌いではないけれど、今は当分見る気にもならなかった。
 だって紅い色はあの人の色。

 思い出は鮮明に、強烈なくらいに心に在るのに、どうしてこうも現実には存在しないのだろうか。いつだってそうだった、大切な大好きな人はみんなみんな、いなくなってしまう。唯一の肉親も尊敬した教官、そして。
 誰より彼が望んだはずの世界に、彼だけがいなかった。これを勝手に食べてしまって怒られた人は確かにいたはずなのに。


 あの人は、気付かない内に明るい光を灯してくれるような、そんな人。
 帰ってきてと強引な約束をした。そんな自分の言動に失望して悩んで、それでもやはり待つしかないという結論しか見いだせないけれど。それでも約束を信じたい。
 そうじゃなければ、もう明かりが灯されそうになかった。
 だってあなたがいないから、私は苦しいか切ないか悲しいかも分からない。

 紅い果実をまじまじと見つめて、そっと指で突いてみる。
「……馬鹿」
 指に乗せるように言い慣れた言葉を吐いてみても、それがシュンと項垂れるように転がっただけだった。

君色