手に添えた肩から震動が伝わった。いつだって気丈に振る舞うのはいつもの仲間の共通点のようなもので、俺には慰めることもできなくてこうして傍にいるだけだ今みたいに。

 死に際を見た自分と同じ少年は光の泡になって、金色に輝いた光の粒が上空に一瞬だけ浮遊して消えた。体が熱かった。確かにイオンを支えていた手には何も残っていなくて、もうイオンに会えなくなるのだと実感するにつれて怖くて悔しくて悲しくてたまらなかった。最初から俺を信用してくれたのはイオンが初めてだったのに。
 自分が今まで殺した兵は、赤い血が出てその場に倒れ込んで冷たくなったのにそうはならなかった。イオンを抱きとめながらぼんやりと自分も死ぬときはこんな風に消えていくんだろう。怪我をすれば血も出るし傷だってあって凄く痛いのに、どうして死ぬときだけは違うんだろうと頭のどこかが考え納得する。やっぱりレプリカは第七音素だけで構成された違う存在なんだと。


 小さくイオン様、と聞こえたのは自分に抱きついているアニスが漏らした空気みたいな声からだった。イオンの二年間一緒にいたアニスはモースのスパイだった。でも分かる、こんな苦しい声で泣くのはどんなときだってイオンにずっと心の中で謝っていたからなのだろうし、それでもアニスは両親が大好きだったからずっとずっと苦しんでいたんだって。だからこそアニスの悔恨に頷くことしかできない。
 イオンの最期の言葉にアニスはどんな続きを想っているのだろう。俺には二人の二年間の日々がどんなものだったかも知らないけれど、きっとイオンも生まれてからずっと一緒にいたアニスを頼っていたんだと、それはなんとなく分かった。
 ツインテールに揺れる黒髪をそっと撫ぜる。イオンに駆け寄らなかったアニス。だからこそ消えてしまったイオンを最期まで触れていた俺が、少しでもあの暖かな光をアニスに分けてあげられれば。

 アニスが泣き止んで落ち着いたらイオンの譜石の欠片を渡そう。何一つ残さなかったイオンの最期に詠んだもの。第七音素が互いに引き合うなら、俺のところにだってもしかしたらイオンの欠片が残っているのかも知れない。ならそれをアニスにこの譜石ごと渡せればいい。
 きっとアニスは独りでまた泣いてしまうから、罪に苛まれて悪夢を見てしまうかもしれないから。強くて強がるアニスに俺なんかがかける言葉なんて見つからないし、そんなものをアニスだって必要としていないだろうから。
 だからせめてイオンが触れた形あるものが、またアニスとずっと一緒にいられたらと。

伝わりますように