最初に会った時から、あたしから見てもミントは大人しくて可愛くて細くて……胸もあれば料理も上手。
 とにかく“女の子”って感じだった。


「ミーント、支度は完璧?」
「アーチェさん。えっと、なんだかドキドキしてます」
 見た目通りそわそわしているミントの肩に手をやって、近くの椅子に座らせた。
「落ち着きなってば。あんなのただ教会行くだけじゃん」
 そう言ってはみたもののあたしの時は直前でいつもみたいに喧嘩が始まって、こんな厳かな雰囲気なんてこれっぽっちもなかったけれど。
「大体、クレスとミントなんて今更って感じなんだから大丈夫だって」
「そ、そんなことないですよ」
 慌てて手を振るとミントの手に握られた白い布がきらめいた。
「あれ、それどしたのそれ?」
「これは……って、覚えていらっしゃっらないんですか?」
「ええーと」
 少しだけ非難めいた目線を向けられて思わず口ごもる。ミントは普段優しいだけに、こうした変化が怖いところでもある。
 普段温厚な人は怒ると怖いというものだし。
「もう、これはナンシーさんにもらった物ですよ」
「あー! 懐かしー」
 久しぶりに聞いた名前にびっくりするのと同時に、あたしにとってはもちろんミントにとっても何年か前の話なのに本当に物持ちがいいんだなぁと感心してしまった。
 ナンシーの一目惚れから始まって、主にミントの協力もあってナンシーとエルウィンは最終的に結婚までこぎつけて、未来ではあの二人の子孫にだって会えたんだった。その時のミントの情熱は凄まじく、クレスもクラースも押され気味で恋する乙女は強いというけれど、他人の恋愛にまで熱いなんてと驚いたけれどそんなところもなんだかミントらしかった。
「あたしは貰ってないし、ブーケ掴むので精一杯だったん」
 言い終える前にはたと気付く。
 ――もしかしなくともミント覚えてるよね?
 冗談まじりに、でもその時のあたしは結構真面目にクレスに口走った言葉を思い出したのだった。
「あの時に頂いたのをこうできる日がくるなんて思いませんでした……アーチェさん?」
「え!? あ、いや、えへっ」
 訝しげな顔で覗き込まれたけど、きっと今なら気付かれずに話を終えられるはずだと早急に話題を変えた。
「そ、それよりそれ付けて出るんだ? 明日」
「はいっ! クレスさんも良いと仰ってくれました」
 幸せを絵に描いたようなミントの笑顔が、何て言うか眩しい。
 目に手を当てるフリをしながらあたしははたと思い立った。
「じゃあさじゃあさ、ブーケはあたしに頂戴!」
「え? でもアーチェさんにはもう必要ないじゃないですか」
「一個より二個の方が御利益ありそうじゃん。ねーミントっ」
「もう、アーチェさんったら……分かりました。ちゃんと受け取って下さいね」
 クスクスと笑うミントは今まで見てきた中で一番輝いていて、今となってはクレスにはちょっと勿体ないかも、なんて現金なことを思ってしまう。
 ――まぁミントもクレスもお互いにベタ惚れって感じだし?
「ねっ約束だよ」
「はい。約束ですね」
 お互いに見合って笑うのはなんだかくすぐったい。
 いつか来る別れはきっとあるけど、きっとクラースたちも明日を見たかっただろうなとは思うけど、そんなことばかり言ってたって仕方ないと今は思うことにしたから。今はとにかく、せっかく会えた大切な友達の大切な日を祝わなくちゃ。
「ミント本当におめでとう」
 ――そんでもってありがとう。
 心の中で付け足した言葉もミントには伝わったらしく、やっぱりあたしには真似できない綺麗な笑顔が返ってきた。

 あたしもなにか返そうとしたとき、クレスが部屋の扉を叩いて入ってきた。
「クレスさん」
「ねぇミント、アーチェがいる所って……ってアーチェ、チェスターが探してたよ」
「うげ」
「何があったか知らないけど、チェスターも反省してるみたいだし、許してあげなよ」
 念を押されながら爽やかな笑顔で返される。クレスの諭すような優しいトーンの声は逆にたちが悪い。
「……分かったってば! ミントの旦那さんに言われたら従うしかないよね〜」
 苦し紛れに言ったときのその時の二人の顔ってば。
「ア、アーチェさん!!」
「アーチェ、何を言って……!」
 面白いくらいに真っ赤な二人の声を背にして逃げるように扉を閉めてあたし達の家へと急ぐ。
 盗み見るように見た扉を閉める直前の二人が心底幸せそうだったから、やっぱりこの後もずっと変わらず良いパートナーになるに違いないと思った。

 明日、ナンシーのホワイトグローブをはめたミントが投げる花束は、きっと凄い御利益があるに違いないと確信して、鼻歌を歌いながら箒に乗って高く飛んだ。

幸福花束