細い光を瞼から感じ取って、コレットは焦りながらも起き上がり時計を見た。
「良かった」
 どうやら予定の時間よりかは早い時間に起きることができた。胸をなでおろして、昨夜に用意した洋服を手に取ったまま顔を洗いに幸せなベッドからなんとか這い出る。
 もともと朝は苦手で前の旅をしている間は、頑張って眠い目をこすって起きたものだった。
 手早く服を着替え、髪に櫛を入れる。そうして支度を完了させ、簡易な宿屋の人に一言を告げて、早朝の街中を歩いていく。これから活気が出てくる街の中、人はまだ疎らだ。それでもすでに開いていた食材屋で数日前から考えていた素材を手に入れてゆっくりと歩き出す。
 エクスフィア回収の旅に出て数ヶ月。
 仲間ともたまには会うこともあるが基本は二人とノイッシュだ。
 食事の当番だって前の旅とは違ってほぼ毎日一緒にやっている。
 人数は少ないから戦闘も大変で、それ以上にいつ終わるかも分からないような膨大なエクスフィアの回収。困難は多くあり大変なことばかりなのだが、コレットにとってみればそれでも嬉しい日々であることに変わりはなかった。
 奇跡的に一度も転ぶこともなく宿屋に戻ったコレットは、支度を整えロイドの部屋に向かう。いつものことならそろそろ起きているはずだろうと思ったことは当たっていて、二、三回ドアを叩けば聞きなれた声が聞こえた。

「ロイド、おはよう」
「あ、コレットどこ行ってたんだよ! 宿屋の人が言ってくれなかったら探しに行ってたところだぜ」
 それでも安心したように「おはよう」と返してくれたロイドにコレットは嬉しそうに手招く。
「えへへ、ごめんね。ね、ロイド、ちょっと外に出て!」
「え? ああ――おおっ」
 少し掛け足気味のコレットに付いて行ったロイドが、それを見て小さく声を上げた。
「誕生日おめでとうロイド!」
 そう言って差し出したのは、コレットが旅の間になんとか失敗せずに作れるようになった料理がいつもより多く並んでいた。
 どうしても誕生日になにか手作りをあげたかった。ロイドがそうしてくれたように。
 当のロイドは自分の誕生日を忘れていたらしく随分と驚いて、コレットに向き直った。
「サンキュー! ありがとな、コレット」
「ううんっ、食べよっか」
「おうっ!」

 ノイッシュも呼んで、町外れの小さな原っぱで小さなお祝い。旅の小さな休憩時間。
 なんてことのないものかもしれないけれど、それが嬉しくないはずがない。
 だって野原の草は少し痛くて、作った料理はまだ熱くて、ロイドが笑っていて美味しいと言ってくれた。そんな全部が心に染み渡ってくる。感情が、感触が、ちゃんと心に伝わる。嬉しいって思える。幸せだって言える。
 神子である自分に特別視せずに、ずっと一緒に遊んでくれたのはロイドだった。だからそんなロイドが幸せになれる世界が来るならならそれでもいいと思った。
 自分の世界は十六年で終わる、それが当たり前で仕方ないと思っていた。
 世界はずっと二つに分かれたままに、それをほとんどの人間が知ることもなく千年王国が成り立つはずだった。けれどそれを阻止したのもロイドだった。
 コレットに通じるすべてがロイドに関わって、覆り、変化を遂げていく。

「すっげー美味かった! お礼に今度のコレットの誕生日はさ、前より豪華にするからな!」
「ええっ? でも前も十分豪華だったし、嬉しかったよ?」
「駄目だって、な? どうせなら皆呼ぶっていうのもいいよな!」
 両手を広げて嬉しそうに話すロイドに笑って返す。
 本当は、ロイドがそばにいて、こんな時間が続くだけで良いんだよって言いたい。二人きりでも、皆が一緒でもきっとどっちも、ロイドがいるだけで嬉しいんだよ、と。けれどまだそれを言える勇気はないから。
「うんっありがとう! 楽しみにしてるねっ」
「任せとけって!」


 これから続いていく道にロイドがいるんだって思える。
 今度、を楽しみにできる。
 ロイドさえいれば、きっと全てを乗り越えられるんだって思える。

 なんだか世界中で一番幸せ者のような気がして嬉しくて、自分の作った料理の味なんて分からなくなった。

世界を変えたのは、