八十神高校校舎内





『皆ありがとう。……おやすみ』

 そうして、通話が切れたのを確認して花村は携帯をしまった。
「……なに、あれ」
「本当、凄かったね」
 そう声を上げたのは里中で、隣に座っていた天城が頷く。
「先輩、自覚あるんでしょうか……」
「いやねーだろ、絶対ねーよ。アイツだよ?」
「理由ないのに説得力凄いっすね……」
 チャイム音を聞きながらいつものメンバーは我らがリーダーのことを考えていた。
 そういえば風邪を引いたところ見ていなかったなと思い出す。そもそも同じ高校生としては中々見られないスペックの持ち主のため、あまり風邪に無縁のような気もしていた。せいぜいバステで衰弱した時の悪化版かな、くらいのものだったのだけれど。実際はその想像の100倍くらい斜め上をいくものだった。

 ぷるぷると里中が手を握りしめている。
「花村から電話奪った後に耳元で笑われた時だって限界近かったのに、掠れた声であの台詞は反則でしょー!? 皆平等に心臓やられたっつーの!」
「さ、里中先輩落ち着いてください。多分一番のダメージは花村先輩ですから!」
「アイツ本当やだ。変な方向に目覚めそう。俺は完二じゃない俺は完二じゃない俺は完二じゃない……」
「おい、ふざけんな! お、お、俺だってちげーんだからな!」
「だからどもるなよ! 真実味が増すんだよ!!」
「……本当、メギドラオンを受けた気分……」
「……確かに。で、でも久慈川さんは芸能界にいますから! あのくらい――」
 阿鼻叫喚のクラス内で直斗がりせに向き直ると、りせは至近距離で詰め寄った。
「直斗ってば何言ってんの!? そりゃ格好良い人は見飽きるほどいたけど! 先輩みたいに格好良くて、優しくて、頭良くて、守ってくれて、眼鏡が似合って沢山ペルソナ使える人なんてそうはいないんだからね!」
「いやそれもう先輩しかいない様な……特に最後」
 ぎゃあぎゃあと叫ぶ姿は随分喧しいものだったが、いつものメンバーかと他の生徒には見慣れているものだったらしい。霧が晴れて随分と経ち、夕方故の綺麗な夕日の光が入ったせいか、皆の顔が紅かったのも然程気にもされなかった様だった。



 常に冷静沈着で素直に物を言う人物は、たまにかなりお茶目でノリが良い。
 頭が良くて、運動神経が良くて、料理が上手くて、そして風邪を引くと素直さが増して少し寂しがり屋なる……らしい。
「無自覚に人を狂わせてないか心配……」
「誰かに恨まれたりしてないよね?」
「SPかなんか紹介したほうがいいかな」
「先輩ならテメェの身くらい守れるに決まってんだろ」
「むしろその人達も巻き込みそうですよね……」
 それぞれに口走る中、ぱん、と両手を叩いた陽介が皆の視線を集めた後に重い口を開いた。

「とりあえず、今後アイツに風邪引かせるの禁止にしよーぜ」

 参謀兼彼の相棒の一言。
 それは中々にして無理難題だったのだが、自称特別捜査隊(解決済み)のメンバーに異論が出るはずもなく、彼に関する不文律に深く頷いた。
 それと同時に――ああ、本当にうちのリーダーは目が離せない――と、異口同音に思ったのだった。

攻撃力が強すぎる。