「聞きたいことってなにか?」
 両足で跳ねながら聞いてくるメルディに切り出さなくてはいけない雰囲気を読み取って一度息を吐く。
「その、だな」
「? はいな」
 躊躇しているとメルディがその場に座り込んだ。切り出し方で時間がかかると踏んだのだろうか、さすがにある程度長い時間過ごしていると、自分の行動は多少なりとも理解されているのかもしれないとキールは感心してしまう。
 メルディに倣って隣に座りながら今度こそ覚悟を決める。
「……お前は僕が頼りないって思ってるんじゃないか、と思って」
 たっぷりと余白を使ってなんとか放った言葉はメルディを間の抜けた顔にするには充分だったらしく、大きな目を更に見開いてキールの顔を見つめている。
「? キール、頼りなくなんかないな。メルディなんかしたか?」
 首を振ることで否定の意を表すとメルディは困ったように笑う。その笑顔がキールの真意を汲み取っていないと感じ取って頭を抱えた。自分の感情を細かく説明するのは苦手だった。
「だからな、たとえば、お前が疲れたときとかに、僕じゃなくてリッドやフォッグが一緒にいればメルディをその、助けることができるじゃないか」
「?」
「だから、だな! そんなときに僕はお前より先に疲れてしまっているから、僕は助けられないだろ? ほら、あの本を運ぶ時だってそうだ!」
 ついつい語尾が強くなっていくのは、言いたい事をしっかり伝えられなくて、もどかしかったからだ。自分の理論を語るなんてことはもってこいの得意分野なのにと、素直ではない自分の部分にほとほと愛想をつかそうとしていると、少し考えていたメルディはそのまま真顔でキールの顔を覗き込んでくる。
「キールはいつもメルディ助けてくれるな」
「え……」
「運んだ本だってアイメンの大切なもの、メルディだってそれが大切よ。キールはそれ守ろうとしてくれた、メルディ嬉しかったな」
 そういえば、本を運ぶと頼んだときにメルディは大して反論せずに笑っていたと思い出しながら、笑顔になったメルディに呆けてそのまま見つめていると、メルディは両手を広げて言葉を続ける。
「いーっぱいメルディ助けてくれてるな。リッドとファラとキールがおかげでグランドフォール止められた、チャットもフォッグも、みんないたからよ。ファラはお料理上手な。リッドは強いな。キールはなんでも知ってる。キールが色々考えてくれてアイメンだってずっといっぱい早く直ってるな、キールのおかげ。メルディ、ホントにそう思うよ」
「……本当か?」
「バイバ! メルディ嘘なんてついてない!」
 ぽかんと口を開けていたのかもしれない、忙しなく話すメルディに訝しげな言葉を投げかけてみれば、両手を振って、頬を膨らまして少し肩を叩かれた。そんな感情を表しているメルディを見ていると本当に年相応には見えないが、そんなところも可愛い、と気付かれないように心の中でこっそりと思ってみる。

 ひとしきり感情を外に出しきったのか、それとな、と彼女は続ける。
「メルディもお料理まだ駄目な。だからお互いだよぅ」
 その一言を言って何かを思い出したらしく、すっくと突然立ち上がったメルディを驚いて見ていると、彼女は急かすようにキールの洋服の袖を引っ張って立ち上がらせるように促す。
「ど、どうした?」
「あのな、ファラがクッキー作ってた! 急がないとリッドが全部食べちゃうよ」
「ああ、そうだな、行くか」
 立ち上がって肯定してみれば、嬉しそうにメルディが手招きをしている。そんな姿を見ればなんだか悩みも馬鹿らしいような気がしてきた。

 ファラは遅いよと、少し顔をしかめていたが当然のように二人分のクッキーを別にとって置いてくれていた。
 キールは奥にいるリッドの顔を見た瞬間に一度睨んでみようとしたものの、それはそれは彼が面白そうにこちらを見てきたのでそれに気付かない振りをしてクッキーを手に取る。ああいう状況のリッドに対して口論して勝てたことはそうはないし、長引けば結局ファラに一括されるのが目に見えていた。
 横目で見れば行儀の悪いリッドにファラは釘を刺している。二人そろって軽口を叩きながらも大きな喧嘩になることなんてほとんどなく、相変わらず自然体で羨ましいくらいに少ない会話で事が進んでいく。
 この二人のように長い間一緒にいたわけではないから、きっとメルディの些細な一言にこれからも戸惑ったり悩んだりするのかもしれないのは仕方の無いことかもしれない。
 けれど。
 目をきらきらさせながら並べられたクッキーを見つめているメルディに、苦笑気味に注意を促してみる。
「メルディ、落ち着いて食べろよ」
「はいな! やっぱりファラの作ったのおいしいな、な、キール!」
 けれど少しくらい悩んだとしても、名前を呼べば満面の笑みで返してくれるのなら悪くないのだ、きっと。
 そう思い、キールは手にしたクッキーを口へと運んだ。

過小評価と透過質問