冬の海辺は当然寒くて風が強い今日なんかは特に体の芯まで震えるようだ。
「寒いっ!」
 隣を歩く瑛くんもそのようでぶるっと身体を震わせたのを見て笑みが漏れる。
「そりゃ、冬の海だからね」
 夏と違って冬場の海辺は人が居なくて閑散としている。あたりをみても私達以外には人は見えない。
「だけど、海はやっぱいいよな! 夏の海が一番好きだけど」
「あははっ、瑛くんそれ何度も聞いたよ」
「しょうがないだろ、本当のことなんだし」
 少し眉を寄せる姿を見て、流石にそろそろ私も寒いし、公園の方に行こうと瑛くんの腕の洋服を引っ張る。
「ね、あっちの方でフリーマーケットやってるよ、なんか掘り出し物あるかな?」
「ああ、行ってみるか? 前にいい感じの見つけたし」
「うんっ!」
 同意してくれたので少し足を早める。フリーマーケットは結構好きで、店の店員さんとは違った感じで会話をするのも楽しい。
 小物から洋服までいろんな種類がシートの上に広げられていて、なんだか宝探しをしてるみたいな気分になる。
「あれ?」
 なんだか瑛くんの好きそうなものを見つけてどうかな、なんて聞こうとついてきていると思って、後ろを振り返った けれど、そこには誰もいない。
「瑛くん? ……どっか見に行っちゃったのかな……」
 それともいいものを彼も見つけたのだろうjかと辺りを見渡す。ぐるりと身体を動かして辺りをきょろきょろを見回す。
「……」
 いない。どこを見てもいないことに、なんだか急に不安になる。

「瑛くん、……瑛く、……佐伯くん、佐伯くんっ」

 さっきまで一緒にいた場所はどこだっけ、やっぱり海岸からはぐれたのかな。そこまで思い出して、走り出そうと右足を踏み出す。
「いたっ!」
 頭に軽く走る痛みと直後に落ちてきたのは私もう一人の同じ音。吃驚して立ち止った私はまた身を翻す。降ってきたのは後方からだった。
「ったく、お前どこ行く気だ? ふらふらしていつの間にかいないし」
 声の先には太陽の逆光であまり顔が見えないけれど、さっきの痛みはとても、とても慣れていたので顔なんて見なくても分かった。
「佐伯くん、どこ行ってたの」
 自分でも驚くほどのか細い声に、不機嫌そうでけれど心配そうな声が呆れた音を出す。
「いやだから、お前がどっか行ったんだって。俺、さっきの場所から離れてない」
「あ、そ、そっか……えへっ、ごめ」
 はしゃぎすぎて置いていってしまったと分かった途端、羞恥で顔が赤くなるのが分かった。まるで小さな子供みたいだと自分を反省して謝ろうとして、彼の声が阻む。
「ごめんな」
「え?」
「だって、お前……泣きそうだ。俺のせいだろ」
 泣きそうなのはもういっそのこと彼のようだ。そんな顔をさせたかったわけじゃなかったから、首を横に大げさに降る。
「ち、違うよ、その、私」
「お前は言い訳下手なんだから無理すんな。あのな、もう居なくなったりしないって言ったろ? ……っていうか、嫌だって言っても側に居てやるからな」
 また言葉を阻まれて、な、と念を押すように頭に手が触れる。優しくて暖かすぎるその手に吃驚して顔を上げれば、照れてるのを隠すようにそっぽを向いた、いつもの彼がいる。うん。声にはなりそうもなかったから、暖かく触れていた彼の手が感じ取れるくらいに頷いた。

 やっと私は本当に、彼の傍にいて居続けられるんだと分かって、あの少しの間傍に居られなかったことがどれだけ辛かったかを今更思い知る。
 鈍い鈍い私がそれでも分かっているのは彼が傍にいなくちゃ駄目ってことだけなんだろう。



 海の近くじゃなくても、彼の傍にいると海の香りがした。
 その匂いは、いつだって私の心を揺り動かすんだ。

やっぱりお互い様。